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1周年記念 「彼方から・・・」2

 13, 2011 00:00
土曜日の午後渋谷の駅で秀人を待っていた隆弘は、時間丁度にやって来た秀人を見つけると、満面の笑みを浮かべ迎えた。
「何でそんな嬉しそうな顔してるの?」
隆弘なら自分でなくても、可愛い彼女とでも出かければいいのに、と思ってしまう秀人だ。
「だって、秀人とデートだなんて初めてだ、嬉しいに決まってるだろ?」
「デ・デートって何だよ?そんな事言うなら僕帰るよ・・・」
「あ、冗談だよ。冗談だから帰るなんて言わないでくれよ・・」

秀人は渋谷駅に降り立った時から、またあの何か訳の判らない苛立ちを感じていたから、
本当の所このままUターンして帰りたい気分だったが、隆弘の嬉しそうな顔を見ると、ついそんな事を言うのが悪くなって、その気分を呑み込んだ。
「さっ行こうか?」
「うん・・・」

駅を出て、スクランブル交差点の赤信号で二人は歩みを止めた。
「何だか人だかりが出来てるけど、何だろ?」
隆弘が訝しげに言うけど、ここ渋谷には色々な人間が集まるから、いちいちそんな事を気にしてはいられなかった。

信号が変わり、車が一斉に停車すると人の波が揺れ出した。
何人の人間かここで交差するのだろう?ふとそんな事を考えながら秀人は足を踏み出した。
丁度真ん中辺りで反対側から歩いてくる人並みとすれ違う。

「あ、あいつ・・・ポスターの奴だ」隆弘の言葉に前方の群れを見る。
数人の背の高い男に群がる若い女たちが見えた。

『ドクン・・』前方にその姿を認めた途端今まで小さな苛立ちだった神経が大きく跳ねた気がした。
ざわざわとする人の波よりも、大きな波が体の中で飛沫を上げている。
一歩進むにつれその波は嵐のように秀人の神経を逆撫でた。
規則正しく流れていた体中の血が、四方八方に乱れて流れるような、そんな嫌な気分だった。

息が出来ない・・・足が動かない・・・

秀人は交差点の真ん中で動かない体と焦る心を操作出来ずに立ち尽くした。
「しゅうと?」隆弘の怪訝な声だけが辛うじて聞こえた。
ドクン・・・ドクン・・・・
乱れ収縮を繰り返す血管が今にも破裂して真紅の血を噴出しそうな気がした。

「想い出して・・・」すれ違いざまに耳元で囁かれた。

想い出して・・・・想い出して・・・・
逝かないで・・置いて逝かないで・・・・・・
とても哀しい言葉が頭の中でリフレインしている。

「いや・・・いやっ・・・・・」
『思い出したくない・・』
だが秀人は自分が何を思い出したくないのかすら分からなかった。
だけど、それはとても哀しい出来事で思い出したら自分は壊れてしまう、そんな気がした。

哀しくて死んでしまいたくなるような想い出。
『置いて逝かないで・・・』
その言葉が秀人に重くのしかかって来る。

「しゅうと?信号変わる・・」
堀内に手を引かれた途端秀人は重圧に耐えられないように意識を手放した。

「秀人っ!!」隆弘の叫びが遠くで聞こえた。

血の気の失せた秀人の目尻から一筋の涙が零れていた。
「秀人?秀人っ、どうしたんだ、しっかり!」
あまりにも突然の事に隆弘が動揺していると背後から声が掛かった。
「君、危ない信号が変わるから」
そう言ったのは、さっきすれ違った群れの中の背の高い若い男だった。

その男は倒れた秀人を軽々と抱き抱え信号を渡り切った所で、隆弘に向かい
「タクシー止めて」と指示した。
やっと我に返った隆弘が通りかかったタクシーを体を乗り出すようにして止めた。
「この子の家は?」
「荻窪・・・」
「30分は掛かるなぁ・・君の家は?」
「俺も似たようなもんです」
「じゃ、俺の家にしよう5分もあれば着く」
「ちょ・ちょと待って下さいよ、何で貴方の家に行かなくっちゃならないんですか?」

「この子は多分起立性低血圧、いわゆる脳貧血だ、早くに衣服を緩めて横にしてあげた方がいい・・」
「だからって・・・」
幾ら有名人だからといっても初めて会った男の家に秀人を連れて行くわけにはいかなかった。

「お客さん、どうするんですか?」運転手の不機嫌そうな声に隆弘は返事を躊躇った。
「表参道まで」そしてそう告げる男にこれ以上口を挟む事はできなかった。
有名人だからこそ変な事はしないだろう、という変な感覚での安心もあったのは確かだ。
だが後になって、今日のこの判断を隆弘は心底後悔してしまった。

タクシーの中でその男は「レン」と名乗った。
隆弘はその時やっとポスターに書かれた「Ren」と言う文字を想い出した。
レンが秀人を横抱きしている以上隆弘は助手席に座るしかない。
隆弘が自分の名前と秀人の名前を振り向いて名乗った。

見るとレンは真っ白なハンカチで秀人の額に浮かんだ汗をそっと拭いている。
「しゅうと・・・」まるで恋人を呼ぶような優しい声に隆弘はえも言えぬ不安を覚えた。

考えてみれば、通りすがりとも言える堀内と秀人を、自分の家に連れて行くという事が普通では無いと隆弘は思った。
だがタクシーはあっという間にレンのマンションに到着した。
後部座席から千円札がさっと出され、助手席にいる隆弘が「あ、俺が・・」と言っても
「一応俺が年上だし、無理に連れて来たっぽいから俺に払わさせて」
と言われ、とりあえずこの場では財布を引っ込めた。

セキュリティロックを解除して、通された部屋は2LDKのゆったりした間取りのマンションだった。
この立地条件でこの広さなら家賃30万はするだろうと、隆弘は不動産会社の息子らしく算盤を頭の中で弾いていた。

「とりあえず、ベッドに寝かせよう」
そう言ってリビングの奥の部屋のベッドに秀人を横たえた。
秀人は幾分か顔色は良くなってはいたが、まだ目を覚ます様子はない。
「君・・堀内君って言ったっけ?
この彼のベルトとか緩めてあげて足の下にこのクッションを置いてあげて」
そう言いながらレンは毛布を秀人の体に掛けてあげていた。
あまりの手際の良さを隆弘は不思議に思った。

「何だかこういう事に詳しいですね?モデルのRenさんですよね?」
堀内は確認するように、そう言ってレンをじっと見た。

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COMMENT - 7

-  2011, 02. 13 [Sun] 00:18

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tukiyo  2011, 02. 13 [Sun] 10:02

一周年おめでとうございます

ってことはぁ私は結構初めの頃から読ませていただいてるんだぁ。
偶然いきついたお庭だったんですがご縁なんてものは
そんなものなんでしょうね。
「彼方から・・・」まだまだ先が読めませんですね~。
これからも楽しみに読ませていただきます。

Edit | Reply | 

ちこ  2011, 02. 13 [Sun] 13:39

わ~い(^O^)祝☆一周年~♪

一周年おめでとうございますヽ(´▽`)/
いつも楽しませて頂いてありがとうございますm(__)m
なにが楽しみって、そりゃまあいろいろありまして・・・
ベッタベタに甘やかすロマンチストの素敵な攻めたんといろいろ背負って大変そうな、きゃわゆい受けちゃんはいるし、もう・・・♪むふふ(笑)
これからも頑張ってくださ~い^ー^)人(^ー^
一周年記念作も、
こりゃまたいろいろありましてな、痴漢に合いそうな綺麗な秀人くんに←勝手にビジュアルは美少年
思わず「おおっ!」と言ってしまったお色気満点ポスターのお兄さんレンさん←唇が赤くてフェロモンダダ漏れ(//∀//)
さらに、ちょっと存在をわすれられてそうな片思い男・隆弘くん←一途な感じがいいよね~♪
な、三人を軸にウキョウキョo(^∇^o)(o^∇^)o楽しみです!
両親に似ていない秀人くんってところが『キモ』でしょうか?
レンさんの態度も気になるところです!
隆弘くんの片思いはどうなるの~?
ってことで、続きを楽しみにしています(^^)v 

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梨沙  2011, 02. 13 [Sun] 21:15

w( ̄o ̄)w オオー!

∑('◇'*)エェッ!?
何か意味深な言葉を告げたと思ったら… 意識なくすし秀人(・_・;
いったい どんな展開がこの先広げられるんでしょうね!?
どんな関係なんでしょうね!?レンは何者って感じ(⌒~⌒)ニンマリ

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kikyou  2011, 02. 14 [Mon] 20:47

tukiyoさま 一周年おめでとうございます

こんばんは。

はい、1年過ぎてしまいました^^

もうtukiyoさまとは長~く付き合っているような気がしています(*^_^*)

いつもコメントも頂き本当に励みになっています。
これからも宜しくお願い致します!

「彼方から・・・」蓋を開けたら驚く展開になると思います。
楽しみにしてて下さいネ。

コメントありがとうございました。

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kikyou  2011, 02. 14 [Mon] 20:52

ちこさま  わ~い(^O^)祝☆一周年~♪

こんばんは。

お祝いのお言葉ありがとうございます。

>ベッタベタに甘やかすロマンチストの素敵な攻めたんといろいろ背負って大変そうな、きゃわゆい受けちゃんはいるし

はっ!言われてみれば、うちのウケちゃん達は皆大変な環境だったりしてる・・・
今度は攻めタンに苦行を与えてみようかしら?(笑)

いつもちこさんには楽しいコメント頂いて、楽しく読ませてもらっています。

これからも宜しくお願い致します。

「彼方から・・・」も4話で急展開します、
楽しみにしてて下さいネ。

コメントありがとうございました。

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kikyou  2011, 02. 14 [Mon] 20:54

梨沙さま  w( ̄o ̄)w オオー!

こんばんは。

まだ訳が判らない話なんですよねぇ・・・
もう直ぐある程度オープンになりますから、
辛抱して読んで下さいネ。

うふふ・・ちょっと楽しみです♪

コメントありがとうございました。

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