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この世の果てで 19

 19, 2010 00:04
「あ、これ尾崎君が持ってて」
そう言って渡されたのはこの部屋のカードキーだった。
「はい、ちょっとお借りします」
「それスペアだから、君が持ってて」
拓海がドアに手を掛けた時に「迷子になるなよぉ」と揶揄するように声が掛かった。


朝食を済ませ一度部屋に帰ろうとする拓海がキーを返そうとすると
「それは君に預けた物だから」と言われ戸惑った。
「あ・・はい、でも僕が持ってていいんですか?」
ちょっと信用し過ぎでは無いか、と少々不安になってしまう。

「君はこれから此処がバイト先だろ?必要だ」
そう言われそのカードキーを財布に仕舞った。
「引越しは明後日の土曜日だからな、君は夕方までに荷造りしておいて」
「特に大した物はありませんから、そう時間は掛かりません」
「そうか?不要な物で処分する物があればそのままにしておいて、手配する」
「ありがとうございます、じゃ俺、失礼します」


拓海が自分のアパートの部屋に戻ると何故かドアの鍵が開いていた。
『あれ?掛け忘れかな・・・』
念の為に用心しながらそっとドアを開け中の様子を伺った。
特別に変わった様子は無い、安心して部屋に入るが何か違和感を感じた。

何度も部屋の様子を確認するが、特に変わった事もなかった。
気のせいかと思いながら、棚の隅の写真に目をやった。
「!」
1輪だけ挿した花瓶の横にある写真のガラスが割れていた。
その写真はまだ父が事件を起こす前・・
幸せだった頃写した家族の写真が入れてあった。

だがそのガラスが割れ、その写真はビリビリに破かれていた。
「誰がこんな!」思わず声に出したが部屋の中には自分以外の存在は無い。

もしかして泥棒が入って何も盗る物が無くて腹いせに壊したのか?
だがその考えは無理がある。
わざわざそんな事をして盗みに入った存在を知らす事は無い。

昔造りのドアの鍵など開けるのは簡単なのだろう、
特にドアが壊されている様子も無かった。
こんなボロアパートに盗みに入りたい程の物があるとは考えないだろう。

『誰が・・どうして?』

へなへなと床に座り込み、破られた写真の欠片を拾い集めた。
『どうして?』拓海が何度考えてもその答えは見つからない。
拓海は台所の引き出しからビニール袋を持ってきて
その欠片を1片も無くさないように、丁寧に入れていった。

最近自分の周りで何かが変わり始めたような気がする。

必要以上に自分に良くしてくれる瀬田との出会い・・
これも納得した訳では無い。
常識で考えてみても瀬田の態度は異常だった。
だがそれは拓海にとって居心地の悪いものでは無かった。

何でも勝手に決められて腹も立ったし、戸惑いもしたが
それは拓海にとって何故か不快なものでは無かった。

だけど、自分の部屋で起こった出来事は何か得体も知れない
何か悪い事が起こる前兆のような気がして、胸騒ぎがする。

リーンリーン

携帯電話を持たない拓海の部屋の電話が鳴った。
こういう状況で突然普段鳴らない時間に電話が鳴る事は
身が竦む程ドキッとしてしまう。

恐る恐る受話器を上げると、その声は突然拓海に向かって
「俺はお前を許さない」
宣戦布告のような言葉に拓海はただ訳が判らずに固まってしまった。




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