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この世の果てで 41

 10, 2010 00:00
何だ寝てるのか?」
突然の瀬田の帰宅にソファでうとうとしていた拓海が飛び上がった。
「えっ?あ・・お帰りなさい」
一体自分は何時間寝てしまったのだろうか?
と時計を見たらまだ5時を少し過ぎただけだった。
「あれ?どうしてこんな時間に?」

普段瀬田が帰宅するのは、早くても7時頃であって
こんな時間に帰宅した事などなかった。
寝てる間に手から滑り落ちた情報誌が足元に落ちていた。
拓海は慌てて拾い上げ、凭れている背中に隠した。

「何だそれ?」目ざとく見つけられ返事をせずにいると
「厭らしい本でも見てたのか?」と揶揄され
「あ・・ええ・・」と適当に誤魔化したがそんな拓海を不審に思い
瀬田が拓海の背中に手を回した。

「あっ!駄目です、見たら駄目です」
背中をソファに押し付け、取られまいと拓海も必死だった。
何故こんなに必死になるのか自分でも判らない。
此処を出て行くとしたら、どっちにしろ瀬田に話さなくてはならない。

いやその前に出て行くように言われるかもしれないのだ。

「拓海・・」瀬田のいつも以上に甘い声が耳元で囁かれた
あっと思った瞬間に背中から情報誌が抜かれた。
厭らしい本ならどうやって、からかってやろうと思っていた瀬田の動きが止まった。

「何だよこれ?」
瀬田のきつい声に身が怯み返事が出来ないでいると
「はあ?何だと聞いてるんだが?}
「・・賃貸住宅の情報誌です・・・」
「そんなの見れば判る!どうして拓海がこんなもん見てるのか聞いてるんだが?」

「そ・・それは・・・いずれ此処を出て行かなくっちゃならないし・・・
だから・・今のうちに住む所を探そうと思って・・・」
「はあっ?そんなに俺と一緒に暮らすのが嫌なのか!」
「嫌とかじゃなくて・・・」
「何の不満がある?」

自分の気付かない間に拓海が此処を出て行く事を考えていたなんて・・
瀬田はそれがショックで、そして腹立たしかった。
最近は『恋のかけひき』とやらに従って、
拓海の嫌がる事などしてない筈だったが?と自分の行動を振り返りながらも
もしかして、朝晩のハグも嫌だったのか?などとも考えてしまう。


「社長?」そこに書類を取りに行った瀬田が直ぐ戻って来ない事に
痺れを切らした狭山が入って来た。
部屋に入ると、ソファに困った顔で座る拓海の前に
仁王立ちして怒っている瀬田がいた。

「何なさってるんですか?時間ありませんよ」
そんな狭山を一瞥すると、少し冷静になって
「ああ、今行く」とだけ答え拓海に向かい
「帰ったらじっくり話を聞くから、寝ないで待っておけ」と言い捨てて
狭山と一緒に部屋を出て行った。

「はぁーーっ」瀬田が出て行くと拓海は深い溜息を吐いた。
『何であんなに怒られなくっちゃならないんだ?』
考えてもいなかった瀬田の怒りに拓海は戸惑ってしまった。


一方車の中で狭山が機嫌が悪そうな瀬田に話しかけた。
「一体何をあんなに怒っていたのですか?」
狭山は拓海が簡単に瀬田を怒らせるような事をするようには思えなかった。

「あいつ・・・俺の所を出て行くつもりだ・・」
「ほう!今度は何を仕出かしたのですか?」
狭山の揶揄するような言葉に、自信は無かったが
「何もしてない・・・」と呟いた。

「何もしてないのに出て行くなんて・・・余程社長が嫌いなんですね?」
狭山の言葉は容赦無い。
「くそっ!お前が言う恋のかけひきなんぞ、素直に聞くんじゃなかった」
10ヶ月も手を出さずに我慢していたのがこの結果だ・・・
こんな事ならいっそ、無理にでも押し倒せば良かったんだ・・

苛々する瀬田を横に狭山は平静を装うが内心周りが見えない瀬田に失笑していた。
狭山は拓海の行動の意味が判っていたのだ。
だが、瀬田には今その理由を言うつもりは無かった。
『面白い事になった』そう胸の中で呟いた。


瀬田が出かけた部屋で拓海はもう一度情報誌を捲った。
通勤するのに便利が良くて、出来たら瀬田のマンションにも近い方がいい。
もし直ぐに自分の後釜が決まらなければ、
世話になった礼に瀬田が不便を感じない程度の事はしてやりたかった。

そう思う自分に少々呆れはするが、色々な意味瀬田には世話になった。
自分が返せる恩はその程度の事だけだ。

暫く情報誌を眺めていたが、拓海はそれをサイドテーブルの上に置いて
ソファに腹ばいになりクッションに顔を埋めた。
自分がサラリーマンになる事も、此処を出て行く事も拓海には想像できなかった。

「でも、このままって訳に行かないよなぁ・・・」
一人呟いたが、精神的なものだろうか?体が動かない。
『俺ってこんなに弱かったっけ?』
今まで母を支え、そして母が亡くなった後も一人で生きてきた。
自分が瀬田の所に来て、随分甘やかされていた事に改めて気付いた。

『しっかりしろよ、俺』
弱くなりそうな自分に叱咤し、ようやく拓海は家事をすべく立ち上がった。





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