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泥より出でて泥に染まらず 4

 28, 2011 00:07
「それにしても、二代目が囲っていたのが男とはねぇ……」
駒田は千尋の頬に手を掛け、顔を左右に動かした。
「僕は、関係ない。お前たちが思うような関係じゃない……」
千尋は駒田の顔を見据えて、そう言った。
「ほう、随分と気が強そうな……どういう関係じゃないって言っているのかい、お兄さん?」
「……囲われているんじゃない」
シラを切りとおすしか千尋には、方法が無かった。
自分と光輝の関係を、こんな輩に踏みつけにして欲しくは無い。

駒田組は、静岡ではそう大きい組では無かった。
だが、観光地という事でそれなりの利益は上がり、その金を使って上に登ろうとしていた矢先に、女に裏切られたのだ。
駒田組にとって、1億という金は取り戻さないと組の存続にもかかわる程の金額だった。

組長、駒田信一郎は若い頃からこの道に入り、いわば下積みを経験した苦労人。
光輝のような、二代目でインテリやくざが一番憎かった。
殆ど逆恨みだが、自分の女がその二代目が経営する店のホストと出奔したかと思えば、憎さは募るばかりだった。

「僕に1億の価値はない」
駒田から目を逸らす事なく千尋は訴えたが「それならそれまでさ、お兄さんの体で返してもらうだけだから」と薄気味悪い笑顔を千尋に向けて駒田は答えた。
「……体で…………」
それがどういう意味なのか分かっている千尋は、それ以上口を開く事は出来なかった。

「本当に綺麗な顔をしている……」駒田の目が厭らしく光り、千尋は顔を背けた。
「ま、夜まで待とう。金さえ手に入れば後はこっちの思うツボだ」
そう言って楽しそうに笑う駒田に千尋は唇を噛んだ。

後手に拘束されたままの千尋は、今の状態では逃げ出す事も抵抗する事も出来ない。
(光輝に迷惑を掛けるのだけは嫌だ……)
「おい、向こうの部屋に閉じ込めておけ。あいつ等が来る前にあれを使え」
何かとても恐ろしい事を指示しているようだが、千尋は気づかないふりをしていた。
今の自分が何を言っても、相手を挑発するか、光輝を窮地に追い込むかどちらかになると思っていた。

そして千尋が連れて来られたのは、小さな窓がひとつあるだけ、家具も何もない部屋だった。
水のペットボトルだけ渡され、縛られていた手は解放された。
それは、この部屋からは容易に出られない事の裏付けでもある。
鍵の掛かった部屋の隅で、千尋は膝を抱えて座った。

自分の愚かな行動を責めてみても始まらないが、どうして飛び出すより先に電話の1本を入れなかったのか、後悔してしまう。
(光輝……ごめん)
千尋の前ではやくざな顔を見せない光輝に、つい油断していたのだ。
千尋は閉じた瞼の奥に、光輝の背中で蠢く竜を思っていた。
大好きな竜の絵……大好きな伯父である彫雅が掘った千尋の大好きな竜……
千尋は、それだけは自分が守りたいと思った。

どのくらい時間が経ったのだろうか、小さな窓から見える外は薄暗かった。
こんなに簡単に時間の感覚が麻痺するとはと、妙な所で感心してしまう。
突然一人の男が、盆に乗ったスープとサンドイッチを持って来た。
「ほら、これ喰って」
「いらない……」
考えてみたら朝少し食べただけで、それ以降は何も口には入れてなかった。
「スープだけでも飲んだ方がいいぞ、体力温存って言うだろう?」
何の為の体力温存だよ?と突っ込みたい気分だが、千尋はとりあえずその盆を受け取った。

「毒なんか入ってないから、さっさと食えよ」
サンドイッチとスープという組み合わせが変だったが、コンビニのサンドイッチに少し安心して手を伸ばした。
この男の口車に乗る訳じゃないが、体力温存は実際に必要なのだ。
もし、無事ここから出してもらえなければ、いざという時に足を引っ張るかもしれない。

封を切った千尋を確認して、男は部屋を出てまた外から鍵を掛けた。
初夏とはいえ、薄手のシャツ1枚で何も無い部屋の中ではうっすら寒い。
千尋は、スープ口を付けた。それはごく普通のコーンスープだった。

外の様子が全く判らないから、千尋には今光輝が此処に向かっているのかさえ判らない。
10分程して再びドアが開いた。
「おい、出ろ」横柄な口調で顎をしゃくられ、千尋はのろのろと立ち上った。
連れて行かれたのは、さっきとは違う和室だ。
駒田は座椅子で寛ぎ酒を飲んでいた。

「8時にはここに二代目が来る予定だ」
千尋が周りを見回しても時計らしき物は見当たらなかった。
「今何時なんですか?}
「7時半だ」
(あと30分……)あと少しで逢える……

千尋がそう思い小さな吐息を漏らした時に、両手を捕られまた拘束された。
「そんな事をしなくても、僕は逃げないし、あと30分したら迎えが来るんだから」
あと30分という考えが千尋に余裕と油断を与えた。

千尋を縛った男が、その手を頭上に持ち上げ鴨居から下がったフックに掛けた。
足は畳に着いてはいるが、両手を上に拘束されれば動く事など出来やしない。
「こんな事しなくても……」
ぐるっと体を回転させ、駒田を睨み付けた。
「ふふふ……せっかく遠くからいらっしゃる客人に、余興を見てもらうんだよ」

「どうしてっ……」千尋がそう叫んだ時に、目の前の男が千尋のシャツのボタンを引きちぎり飛ばした。
「シャツは剥ぎ取れ」駒田がニヤニヤしてその男に命令すると、ビリビリと引き裂かれ、残った生地が千尋の腕に絡み付いた。


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