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天使が啼いた夜(修正版)2

 01, 2010 00:00
山口は自分の机の鍵付きの引き出しから更に鍵のかかった小さな金庫を取り出すと
中から5色に分けられたカードを取り出した。
迷わずに紫のカードを抜き、他は又大事に閉まって鍵を掛けた。

そして携帯電話を掛ける。
「あー山口だけど、今いいかな?紫切るけど何時がいい?」
と唐突に用件だけを話し出す。
電話の相手、堂本紫龍は銜えていた煙草を「えっ?」と言う言葉と一緒に
落としそうになった。

「紫?随分突然だなぁ?」
「そうか?俺は2年前から決めていたけどな。時期を見計らっていたのさ」
「そうだなぁ、じゃ明日の午後3時に寄越して」
「了解、綺麗なパンツ履いておけよ」
「なんだそれ?」
「まぁそれくらい覚悟しておけって事さ」
そう言うと山口はさっさと電話を切ってしまった。


一方ここ株式会社DOMOTOの社長室では
秘書の浅田哲也が銀縁の眼鏡をずり上げるように
「紫ですか!」と。普段冷静な男に似合わない声を発した。

「あぁこの5年で初めてだ」

若干28歳で株式会社DOMOTOの社長である堂本紫龍と
学生課の職員の山口は高校からの同級生であった。
2代目である紫龍が会社を継いだのが23歳、晩婚だった父が35歳の時に
やっと紫龍が生まれたのだった。
お陰で、大学を卒業して会社に入り2年目で社長の座を言い渡されたのである。

中学の頃から経営学を学び大学生になる頃には親から借りた資金を元に
IT企業を立ち上げ、在学中に返済も済ませている。
そんな2代目を年齢だけで反対する重役も居なかった。
社長だった父が会長の座に納まりまだ充分に威光があったというのもあるが、
5年過ぎた今では、誰一人と文句のつけられない実績を上げていた。
安心した会長も最近は夫婦で旅行三昧の生活を送ってるようだ。


T大学の学生課に配属された友人に5色のカードを渡してあるのだ。
白、黄、青、赤、紫
ここ5年で赤と紫は切られていない。
白は本人が希望してるから、面接だけでもしてくれ程度
黄色は少しは使えるかな?青は使えると思うよ程度の色分けである。
実際青でバイトに来た学生は今までに6人居るがその全員が
今正式に就職して駆け上がろうとしている。

山口の目はとても厳しいと思ってる。
いくら本人が希望しても気に入らない学生は白のカードさえ切らない。
だから白でもカードを切ってもらえる学生は他の会社でも充分上位で通用する人間だ。

それが赤を飛び越えていきなり紫となると
どんな学生が来るのか楽しみでない筈がない。
紫の意味は「絶対」である。
山口の人を見る目の自信とプライドに掛けてのカードである。


その裏の裏があるようなカードを渡された櫻井紫苑はその意味を知る筈もなく、
山口は「明日の午後3時にそこに書いてある住所の会社に行って面接しておいで、
受付に行けば分かるようになってるから、一応簡単な履歴書持って行って。」
とその重みも感じさせない、お気楽な発言をしている。
勿論何の説明も助言もない。

「はい、ありがとうございました。受かったら今度はクビにならないように頑張ります」
渡されたカードをちらっと見て、紫苑は丁寧にお辞儀する。

「おお、頑張って」内心愉しくて仕方ないのだが、
顔には出さずに激励してあげた山口だった。



まだ7月になってにのに暑いなぁとブツブツ言いながらエントランスに入ると
程よい空調の効き具合にほっと息をつく。
自分の担当する会社を回って社に戻った深田は
昼も食べ損ねてしまったのだが、それよりも今は冷たい飲み物が飲みたかった。

ここは1・2階に幾つものテナントが入り、社の受付は3階になっている。
一流の店が出店しているブランドビルのようになってるが
2階には買い物に疲れた人たちの喉を潤すためのカフェが入っている。
一般にあるカフェよりも少々高めではあったが、
それでも厳選した豆で美味しい珈琲が飲めるとなると、社の人間も結構利用していた。

深田も毎回は無理だが、仕事が上手く行った時や
給料後には自分にご褒美にと足を運んでいる。
なんか俺安上がり?と思わない訳じゃないが、
他の店に2度行けてしまうのに、と考えるとやはり贅沢な気分にもなってしまう。

このカフェは会社の直営だ。
社長もやり手だよなぁ、数十万もする買い物をした後じゃ1杯千円の珈琲でも
高いと思わない客が大勢いる。
そして社長の凄い所はカードが使えない店にしている事だ。
ブランドショップでは散々カードで買い物をさせ、ここのカフェは現金オンリー。

「カードしか持ち歩かない人間は信用してない」それが社長の考えだ。

俺もその意見には賛成。
たまに居るんだよなぁ、
「君、私は現金を持ち歩かない主義なんでなぁ、ここ立て替えておいてくれないか?」
などと、自慢げに言うせこいオヤジが。
そしてその立て替え金が返ってきたためしがない。

そんな事を考えながら、残り少なくなったアイスコーヒーの氷を掻き混ぜていると
斜め後ろの席に座った客が「珈琲お願いします。」とオーダーしていた。
声の感じで若い男だと判ったが、今時珍しく丁寧な奴だなぁと思い
何気に振り返ると黒の半袖のポロシャツを着た色白の美青年が座っていた。

すぐに目線を戻したのだが、深田の心臓はバクバクしていた。
『何あれ!?男だよなぁ、何か凄くないかぁ?』
もう一度確認したい、振り返りたい、でもジロジロ見ちゃ拙いよなぁ?
などと自問自答していると、何気に周りも息を呑んでいるのが感じられる。
『良かった、俺だけじゃないんだ・・・』と妙に安心してしまった。

「お待たせ致しました」心なしかボーイの声も上ずってるように聞こえる。
「ありがとうございます、いい香りですね」
「ご・ご・ごゆっくり!!」上ずってるどころじゃないなこのボーイ・・・

とうとう飲み干してしまった・・・空のグラスを前に一大決心をするかのように
「アイスコーヒーお替り」言ってしまったよ俺。
その一言がきっかけのように、周りから「お替り」の声が相次いだ。

凄い、席に付いて5分かそこいらで
この美青年は5千円分の売り上げに貢献しちゃったよ。
もう一度盗み見るようにそっと後ろに目線を回せば
乳白色の陶器よりも白い細い指で何気なくカップの淵をなぞっている。
少し緊張した面持ちで小さい溜息をひとつ。
まるで映画のワンシーンのように、そこだけ空気が違うのだ。


その型の良い唇がカップに触れるたびに、『俺カップになりたかったかも?』
などと馬鹿な事ぼーっと考えてしまっていた。
ちらっと左腕の時計に目をやり、意を決したように伝票を掴み席を立つ青年を見て
慌てて自分も伝票持って、レジへと続く。

セカンドバッグから財布を取り出し、会計をしている青年を背後から覗くように見ると、
財布には銀行カードと並んで、ゴールドのクレジットカードが納まっていた。
『げっ、やっぱお坊ちゃまか?あの若さでゴールドだもんなぁ・・・・
何気に時計も高級そうだし・・・』

俺なんか視野にも入らないんだろうなぁ?
昼飯代4日分を支払ってもその価値あったけどな。
さぁ、あとひと頑張りしよう!!
そう自分にカツを入れて歩き出した。


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